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近年、インターネットや一部の歯科施設において
「食育や口の体操だけで歯並びが良くなる」
「矯正いらずの歯並び育成」
といった誤解を招く表現が増えています。
しかし、顎顔面発育を専門に診ている歯科医師として、
私はこの流れに強い危機感を覚えています。
結論を明確にします。
食育や体操は “歯並びを治す力” を持っていません。
顎の骨格が小さい・上顎が狭い・前後的に劣成長している場合、治す方法は
「顎顔面矯正」しかありません
■ 顎顔面矯正の本質
顎顔面矯正(いわゆる骨格的拡大・上顎前方牽引・急速拡大など)は、
上顎骨の幅を広げる
上顎の成長を前方へ誘導する
咬合の土台となる骨格を整える
といった、“骨そのものの成長方向” に介入する治療です。
これは 食育や体操では絶対に代替できません。
なぜなら:
● 食育=筋肉・咀嚼習慣への介入
● 顎顔面矯正=骨格(上顎・下顎)の位置・大きさへの介入
対象がまったく違うからです。
■ よく噛む・姿勢を正す → これは「予防」
もちろん
よく噛む
姿勢
鼻呼吸
舌の位置トレーニング
などは顎の成長には有益です。
しかし、研究が示しているのはあくまで
「顎の発育に良い影響を与える可能性がある」
→ “治す” のではなく “悪化を抑える” 程度の補助効果に過ぎません。
すでに
上顎が狭い(歯列弓狭窄)
クロスバイト
下顎の過成長
叢生(スペース不足)
骨格性不正咬合の兆候
が見られる子どもに対して
食育で治ることは100%ありません。
■ 最も危険な誤解
最近、
「体操や食育だけで顎が広がる」
「小学校低学年なら食育だけで歯並びが治る」といった宣伝も見受けられますが、
これは科学的根拠のない“危険な簡易理論” です。
これを信じてしまい、
本来必要だった顎顔面矯正の開始時期を逃すと――
上顎の成長が止まる
小児期にしかできない骨格改善が不可能になる
中学〜大人になってから外科矯正が必要になる
費用も治療期間も何倍にも跳ね上がる
という深刻な不利益が生じます。
■ 顎顔面矯正が必要な子の特徴
以下の症状が1つでもあるなら、
食育では絶対に治りません。顎顔面矯正の適応です:
上顎が狭い(口蓋が高い)
いびき・口呼吸
前歯のクロスバイト
叢生(スペース不足)
下顎が前に出ている
笑うと上顎が小さく見える
ガタガタ・八重歯の兆候
嚥下が不安定(舌が下に落ちる)
これらは 骨格の問題 であり、
食事や体操で改善できる段階はとっくに過ぎています。
■ 当院の明確なスタンス
当院は
顎顔面矯正の科学的根拠に基づき、
食育・体操だけで歯並びが治るという“誤情報”を強く否定します。
食育は大切です。
しかし 食育=矯正治療の代わりではありません。私たちは、
お子さまの成長を守るため、
骨格評価・呼吸評価・咬合評価に基づいた
医学的に正しい治療を提供します。
■ 最後に
成長期は一度しかありません。
その貴重な時期を「食育だけで治る」という
誤った情報に奪われてしまうことは、
子どもにとって取り返しのつかない損失です。食育は“サポート”です。
骨格を治すのは“顎顔面矯正”だけです。
これが、顎顔面を診る者からの
科学的で、そして臨床的な結論です。